トークセッション記録
花田教授
これより、ゼロカーボン・ダイアローグのトークセッションを開始したいと思います。私は、これからのセッションの進行を務めます、大阪産業大学の花田と申します。よろしくお願いいたします。
さて、今回はコロナウイルスの感染拡大防止ということで、リモート開催となりましたが、遠方からのご参加もいただいておりまして、リモートならではの利点も見えてまいりました。参加者の皆様とリモートではありますが、一緒に考えていければと思います。
現在、人類がコロナと気候変動という大きな2つの危機に直面していると言われています。2つの危機にはいくつかの共通点があると思っています。まず、影響が地球上のあらゆる国や地域に及んでおり、原因が我々の経済生活のあり方や地球環境・自然との向き合い方、距離感が関係していると言われていること。それから、その解決のためには人類全体が制度や技術、暮らし等、あらゆる面での取り組みが求められることです。
危機を乗り越えるために必要なのは、元の世界に戻ることではなく、誰一人取り残すことなく、より良い世界を実現していくことです。講師のお二人のような若い活動家の方々の発想力と行動力が推進力となるだけでなく、様々な立場や分野の方と化学反応を起こすようなやり方がパートナーシップではないかと思いました。若い方々の活動や考えを通じて、新しい視点について考えていきたいと思っています。
■チャットへの質疑応答
花田教授
では、まずは参加者の方からチャットをいただいていますが、その中でご質問が来ていますので、お聞きしていこうと思います。
まず、谷口さんへのご質問から読み上げさせていただきます。
「現在の気象状況は以上だと思っています。産業革命後に人が地球にもたらした負担は、人が生きやすくするために行なってきたはずの開発によって地球が悲鳴をあげ、人への負荷が帰ってきていると感じていいます。
ただ、地球が誕生してから暑い時期と寒い時期が周期としてあり、私自身温暖化がその周期の途中なのかと思うことがありますが、今の気候変動は地球の周期の一つではないかと考えることはありますか?」ということですが、お伺いしてもよろしいですか?
谷口氏
はい、ありがとうございます。まず、人を生きやすくしてきたはずの開発によって地球が悲鳴をあげているのは事実だと思います。ただ、環境活動家として忘れたくないのは、悪意を持って開発した人はいないということです。その時代を生きた人たちがその時代に合った物質的な豊かさの欠如や課題に取り組んだ結果、その反動として新しい課題が出てきて、その課題に今を生きている我々が取り組むという繰り返しだと思っています。
また、地球が寒冷期と温暖期を繰り返してきたのは事実ですが、産業革命から200年ほどでの温度変化は、これまでの地球上の一番激しい温度変化に比べて10倍から20倍のスピードで温度が上がっていて、異常と言われています。
NASAの発表や、2017年に世界中の気候学者たちに取られたアンケートでは、97%以上が人間の活動のせいで地球温暖化が実際に起きていると回答していますが、3%未満は違うことを言っているというのも事実です。
ただ、今、温暖化が起きていても起きていなくても、人間が環境を自分たちの都合で破壊しすぎていることは議論を待たないと思っています。
温暖化対策は、行き過ぎている環境破壊を立ち止まって見直すことだと考えているので、どの説を信じるかは個人の自由ですが、温暖化が起きていないからといって、環境破壊をし続けることを正当化するために温暖化を否定するのは違うのではないかと思います。
花田教授
ありがとうございました。ご納得いただけましたでしょうか。
続いて、長坂さんのファンの方からのご質問ですが、「ミリーちゃんプロジェクト」について、アンパンマンに変わるサステナブルなアニメを制作するという話がありましたが、具体的なことが決まっていればお話しいただけますでしょうか?
長坂氏
はい、僕の活動をどこかで見てくださっているようで、ありがとうございます。ミリープロジェクトは、7月7日から東京大丸デパートで発表する予定です。30秒程のショートムービーをウインドウで見ることができるように準備していて、百貨店では、動画の公開やミリープロジェクトの作品を10mぐらいの空間にかなり大きく展示を行います。
ミリープロジェクトでは、おもちゃの作り方を変えていこうとしています。今までは石油をペレット化したバージン材と呼ばれるものを、我々が技術や場所を提供し、現地の人が労働をしながら、ガーナに投棄されるプラスチックごみをリサイクルペレットに変えて、ごみを減らしていきながら、ガーナのごみを何万トン排出できたかを可視化し消費者が分かるようにして、それと関連するような事業内容を随時発表していこうと考えています。
花田教授
ありがとうございました。ミリーちゃんはとても魅力的な存在だと思いました。「成り立ちやこういう意味があるから、みんな価値を認めてね」ではなく、まず商品やサービスに価値や素敵さがあって、その裏にサステナビリティがあるというのがとても素敵だと思いました。
それから、もう1つご質問がきていまして、お二人にご回答いただければと思っています。「楽しさと共感を環境活動に取り入れることの大切さを実感している一方で、協働というキーワードがあり、様々なステークホルダーと協働連携することが求められていますが、それについてどのようにお考えでしょうか?ご自身の活動から協働の大切さや必要性もしくは、そもそも必要ない等のお考えも含めて、お聞かせください。今後の活動のヒントにさせていただきます。」とのことですが、いかがでしょうか?
谷口氏
僕もそう思います。協働は大切で自分自身も意識しているからこそ、先ほどもお伝えした正しさや強制じゃなく、楽しさや共感を意識しています。
もう1つ大事にしているのは、否定や攻撃をしないことです。例えば、石器時代が終わったのは、石が枯渇したから終焉を迎えたのではなく、鉄器という、より魅力的なものが生まれ、みんなが鉄器を使ったから終わりました。実際にルクセンブルクでは、環境問題を解決するために、車を禁止するのではなく、バスや電車等の公共交通機関を全部無料にしたことで、公共交通機関の利用者が増え、結果として車の利用者が減って、環境が劇的に改善しています。
時代を変えるために既存のモデルを否定したり攻撃する必要はなくて、自分のやっていることの魅力を発信する方が良いと思っています。自分たちがやっていることを魅力的にすることに時間とエネルギーを注ぐことが、協働に繋がると思っています。
花田教授
先ほど谷口さんがおっしゃっていた義務と権利の話にも繋がると思いました。例えば、北欧にある自然享受権では、そもそも自然を尊重し、再生を妨げるような利用は絶対にしてはいけないという前提があって、権利があります。そこが素敵だと思っていましたが、それを思い出すような話でした。ありがとうございました。続いて、長坂さんはいかがでしょうか?
長坂氏
協働は初めて聞いた言葉ですが、常に似たような考えは持っています。5年前は、アフリカを救うと言えば、募金箱持って寄付を募るといった風潮でしたが、自分のやりたいことは、サステナブルビジネスで、フェアトレードを行いながら、皆を巻き込んでいくエンターテイメント性のある事業でした。でも、エンターテインメント性を強くすると、アフリカと言えばお涙頂戴で、最後に寄付金額を決めてくださいというようなものがあるじゃないですか。
その団体が悪いわけではなくて、僕が特化したいのは、楽しさをビジネスに入れることです。サステナブル・キャピタリズムで「文化」を推す理由は楽しいからです。僕は、毎日楽しんで絵を描いて、映画やアニメ制作を行っていて、楽しいから365日地球のために活動できています。皆さん資本主義なので、365日仕事はすると思うんですが、僕はそこに「地球をきれいにするって楽しい」を入れることを大事にしています。
我々は生まれた時から資本主義やお金という概念を刷り込まれているので、稼ぎたいし、地球環境さえよければ死んでもいいとはならないですし、同じ紙でも99.9%の人は、1万枚のメモよりも1枚の1万円の方が欲しいと思います。
例えば「作品で石油製品の絵の具を使っているので、書けば書くほど地球汚しますよね」とか「ガソリン車に乗ってきたらCO2出している」と言われますが、言いたいことは分かりますけど、社会や文明は一人で作れるわけがないと思っています。
アーティスト志望の学生に、「スケッチに書くだけで環境負荷が始まっていると思って辛い」と言われたことがありますが、僕はその一枚のスケッチに何を書くかだと思うんです。その一枚を壁に貼った時に、それを見た1万人の行動が変わって紙の使用を半分にしようと思った瞬間に、何万、何十万枚の紙の削減ができて、どれだけの環境整備・保全に繋がるかということで、それを悲観してしまったら、旧石器時代に戻らないといけないという話になりますが、みんなそれはできないと思います。
僕が活動をしている間、船はソーラーシステムや水素のエネルギーだけで動くようになるとか、車がオートメーション化するとか。一人が頑張って全責任やレスポンシビリティを受けて解決するのではなく、1つのことにフォーカスし、自分の事業について環境、文化、経済の3つをしっかり考えて特化するだけでいいと思います。それらがいいバランスで調律しあって、気付いたらサステナブル、エシカルな時代が来ているのではないかと思っています。
話が長くなりましたが、自分以外のことを否定する前に、自分のことをやる。そういう人が増えれば、絶対に世間が良くなると信じています。僕が制作した作品を見て、単純に楽しむ人や電力やエネルギーを考えようという人が増えていけばいいと思っていて、それが共生・協働のあり方だと思います。
花田教授
ありがとうございます。長坂さんは、楽しんでいる先に、実は啓発や地球にいいことがあるというシステムを考えられたところがサステナビリティだと思いました。
協働で言うと、先ほど谷口さんが、みんなが知らないことが希望だとおっしゃっていましたが、私も熱心に取り組んでいらっしゃる市民の方や先生方とご一緒すると、熱心な方ほど「なんでみんなはしないんだ」とか「どうしてこんなに大切なことが分からないんだ」と思われてしまうのを、すごく残念に思っていたんです。
人が動くことにはいろんな方向があって、楽しいで動く人や、お得で動く人、倫理的な気持ちで、エシカルということで動く人もいる。それを考え方が浅いとか非難する必要はなくて、一人の百歩より百人の一歩と考えて、協働に関して、いろんなやり方でお誘いいただけたらいいのかなと思いました。
■学生プレゼンの感想について
花田教授
次に、先ほどの学生のプレゼンについて感想をお願いできればと思いますが、まずは谷口さんからよろしいでしょうか?
谷口氏
「つくる責任つかう責任」の橋本さんの発表では、万博をゼロWasteで行いたいというだけでなく、万博をきっかけとして活動を展開していくことを捉えられていることがすごいと思いました。規格を取りに行くのは、一番難しい部分だと思いますが、規格をとってしまえば二人目以降だと変えるのが面倒という理由で最初のままのこともあるため、スピード勝負になると思うが活動を続けてほしいです。
もう一つは、容器にこだわってもらえると面白いと思います。例えば、ドイツの大学生がコーヒー粕を圧搾してタンブラーを作っています。これも1つのサステナブルで、大阪ならではの、普段捨てているものをベースに容器を作るところまで行ってもらえたらすごく面白いと思います。
「SDGs Point」の佐藤さんの地域通貨のアイデアは大好きです。僕自身、社会で起きている諸悪の根源がだいたいお金の仕組みだと思っていて「今だけ、金だけ、自分だけの社会」と呼んでいます。お金で買える全てのものは時間と一緒に価値が減っていくのに、お金だけが1万円札は10年経っても1万円の価値があるという不老不死の仕組みが、相対的にお金とお金で買えるもののバランスを崩しています。
お金も時間と一緒に腐らせようということで、ドイツのキームガウアーでは、1カ月で1%、1年間で10%ほどなくなっていく仕組みで、地域通貨を行っています。世界で一番成功している地域通貨として海外メディアから取り上げられており、これまでに10億円を発行し、地域も地域通貨で回っています。
相対的にお金を弱くした結果、環境に目が向き、植樹やオーガニックのものづくりを行う人が増えていますし、お金が腐っていくとため込まないので経済にも良く、20世紀に同じような仕組みが流通していたオーストリアでは、たった1年間で5人に1人が失業者という大不況でしたが、失業者やホームレスが0になりました。また、地域通貨の決済にかかる税金で税収が8倍に増え、福利厚生が充実し、歯医者以外の病院や学校が無料になっています。
減価型の仕組みは出資企業にもメリットがあり、付与したポイントが使われなかった場合、半永久的に企業のB/Sシートと呼ばれる貸借対照表で負債の方に溜まっていくことがハードルになりますが、時間と一緒に価値が減っていけば負債は溜まらないです。
さらに、価値が減るだけでなく、自然に使わなかったポイントが環境保全活動を行っている団体や保全活動に回される仕組みにすれば、もっとたくさんの人の賛同を受けやすいのではないかと思いました。
学生万博構想の夏山さんのアイデアは、学生ならではの多くの人を取り込もうとするスタンスに共感できました。僕もイベントに呼んでもらえると嬉しいです。
大阪防災プラットフォームの多田さんと峯さんのアイデアでは、防災についてたくさんの人に知ってもらうために、ファッション等のジャンルを取り込もうというのがすごく素敵だと思いました。
さらにターゲットとして入れてほしいのは、損保業界です。火災保険等の防災のための保険料は、ここ4年間で3回値上げされ、2割程上がっています。例えば、2018年に大阪で起きた台風21号の保険料の支払いは1兆円を越えていて、今まで1年間通して一番多い年で2004年の7000億円程だったので、一発の台風で過去最高金額となり損保会社が困っています。
同じ災害が起きても、防災さえしっかりしていれば被害が減り、保険の支払いが減るので、巻き込もうとしたら喜んで食いついてくると思います。
花田教授
ありがとうございます。お待たせいたしました。続いて、長坂さんよろしくお願いいたします。
長坂氏
はい。今回発表してもらったプロジェクトについて、本当に起業ベースで、本気でやりたいっていうのはどのくらいいますか?
佐藤さん
SDGs Pointでは、アプリ開発で三菱総研の方が関わってくださって動いています。資金の調達の方法や資金源をどこから集めてくるかを、学生の間で考えています。
長坂氏
今はピッチコンテストやスタートアップ等、超大手企業ではアイデアがなさすぎて若い子達と一緒にやりたがっていることが多く機関もたくさんあるので誰かがやってしまう前に、すぐにやったほうがいいと思います。
SDGs Pointはアイデアがいいので、起業して大阪府のパートナーとして民間の企業で入っていくのもいいと思います。あとは、ESD投資家たちは元気なので、本気で企業したいのであれば、資金調達ベースでやっていくのがいいと思っています。是非SDGs起業家になってほしいです。
資本主義や競争原理主義のため、富裕層やトップにお金が回るようになっています。こんな世の中だから、僕は「富の再分配」を結構考えて行っていて、前澤さんと一緒に500万円ずつ出して1,000万円を配布もしました。今後、地球を守る若き起業家達に寄付ではなく、お金をあげてもいい時代が来ると思っています。
資本主義を否定したところで世の中は変えられないので、サステナブル・キャピタリズムを発信している。将来、資本主義という概念がなくなる時代が絶対に来ると思っていますが、今は過渡期なので、1つのステップとしてサステナブル・キャピタリズムを発信しています。
必要なのは、アイデアやビジネスに対する意思や勇気だと思います。学生枠を脱ぎ去って、命をかけてやる人が出てきて、全部動かすぐらいのビジネスモデルを作って欲しいです。
花田教授
長坂さん、ありがとうございます。投資家のバフェット氏が9割程の資産を寄付すると言っていて、今回の話も含めて、お金の価値が少し変わってきているように思いました。それから、長坂さんが伝えているサステナブル・キャピタリズムの裏には、持続可能性というものが価値として認められてきた社会なのではないかと思い、社会が大きく変わってきていると感じました。
長坂氏
今までの生産活動は文化の提供と経済だけで、文化の提供と環境保全をやっている人たちと分断されていたと思います。ここ2、3年で急に、国やメディアがSDGsを言い始め、投資家の中でも、脱酸素、サステナブル、ESG経営の事業にしか投資してはいけないというルールもでき始めています。
資本主義のため、お金が集まるところに事業が生まれますが、逆に言うと、投資家のお金が余っている理由は、今の新しいイデオロギー、社会思想の中で新しいサステナブルなビジネスモデルを提案できてないからだと思います。言い方が悪いですけど、学生たちも本気でやりたいのであれば、学生をしている場合ではなくて、学生 起業をやればいいと思います。自分たちでマーケットを作っていくぐらいの気持ちがあれば、お金は勝手に集まってきます。
花田教授
長坂さんのお話を聞いていて、2015年は12月にパリ協定、9月にSDGSが採択され、長坂さんがサステナブルを知ったのもこの年だということで、様々なことが動いた年だったと思います。
キャピタリズムについては、谷口さんが気候変動で失うものは平和だといったが、社会にとって重要な社会的共通資本(医療、教育等)をお金や資本の論理で考えると困ったことになるとおっしゃった宇沢先生も、一番の社会資本は平和だと言っていました。今のESG投資など、金融によって社会を変えていくのであれば、そういう活動にお金を使ってもらうのがいいのではないかと思いました。
■メッセージ
花田教授
最後に、お二人から参加者の方へメッセージをいただければと思いますが、お願いできますでしょうか?
谷口氏
はい。このような機会を頂きありがとうございました。対話といった形でお話を交換するのは好きですが、ここで終わってしまっては何の意味もないため、是非行動に移していければと思います。
長坂氏
皆さん、今日はありがとうございました。学生も様々な環境問題に興味や関心があって研究等をいろいろしていると知って、あとは勇気だけだと思いました。発表会だけで終わるのはやめてほしいです。厳しく言うわけではなく、それが社会の厳しさなので、その辺りを自分の心に持てば、誰も持ってないアイデアが勝手に湧いてきます。パッションとか気持ちとか行動力を持ってほしいです。先進国は仮想平和で、心が不幸だったり貧乏だったりするので、それをぶち壊すジャンヌダルクも出てきてほしいと思います。
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