齊藤明希さま、エバンズ亜莉沙さま対談記録
「アップサイクルによる地球環境課題へのアプローチ」
ブランド「PLASTICITY」ファウンダー 齊藤明希 様
聞き手:エシカルコーディネーター エバンズ亜莉沙 様
エバンズ:実は私たちはプライベートでもお友達でして、今日はフランクに明希さんと呼ばせていただこうと思っています。まずは少し、川崎さんの講演の感想をお願いします。
齊藤:情報が新鮮で、まだ消化しきれていないですが、新しいからこそ参考になることや取り入れたいこと、学びたいことがたくさんありました。
エバンズ:本当にそうですね。カタカナがたくさん出てきて私も、噛まずに言えないと思いました。詳しく聞かせていただきたいと思った情報がたくさんあったのですが、お話の中から通じるファッション、ものづくり、一つのサイクル、PLASTICITYのブランドコンセプトなどを本日はお伺いしたいと思います。まず初めに、PLASTICITYはどのようなブランドですか?
齊藤:ビニール傘が街中で捨てられているのは、特に雨の日や雨の次の日には珍しくはない光景です。PLASTICITYではこういった傘を主に商業施設や鉄道会社からまとめて回収し、新たな素材を作り、バッグを製造しています。そのバッグがこちらになります。
エバンズ:せっかくなので実物をお見せできればと思います。商業施設や電車の中に傘を忘れてしまった経験が見ていらっしゃる方の中にもあるのではないかと思うのですが、なぜ傘という素材に着目されたのですか。
齊藤:元々は傘で何かしたいという訳ではなく、環境や動物に優しい素材でバッグを作りたいと思い、様々リサーチしていたのですが、土に還る動物性の素材ももちろんありますし、ナイロンなど分解しないものなど色々あって、何がいいのかわからなくなっていた中で、どのみち廃棄されるものであることに違いないはずだと思い、身近なところで再利用可能なものをヒントに素材を探し始めました。そんな中でニュースを見てビニール傘の廃棄問題が存在することを知りました。映像でビニール傘の骨とビニールの部分が絡まってどちらもリサイクルできないという問題があり、埋め立てされていることがショックでした。その量も年間6400万本捨てられているという数字とその絡まっている映像が印象に残っており、廃棄されているものを探していた自分の考えとむすびつきました。これだけ身近にあるので実験しやすいというのもスタートしたきっかけの一つです。
エバンズ:なるほど。バッグのデザインを勉強する中で、せっかく何か作るのであれば社会で課題になっているものを材料として使ったりだとか、環境負荷の低いもので作れないかだったりということを考えたのですね。ビニール傘で作るというのはとても新しい視点だという風に思いました。エコなマテリアルとしてビーガンレザーや残布を使って作るということもあるのですが、特に日本はビニール傘の消費量が世界一位なのでこの国独自の課題に着目をしたというのも素敵だなと思いました。これが実際に回収されて、洗浄されたりプレスされたりする過程もすべて日本国内で行われているのですね。写真で生産工程を見てもらいます。
齊藤:手作業が多く、初めは先端部分を切ってビニールを剥がして、山積みにされたものを洗浄します。その後、大きく分けると透明、白く濁ったもの、色のついたものの三種類に仕分けされます。映像にあるように、プレスのマシンに何層かに重ねたビニールを熱圧着し、素材を作成します。出来上がった素材がこちらになります。一枚のシート状になっているのですが、縦の線は傘の骨を支えていた生地の重なっていた部分にあたります。全体の筋は傘のビニールがそもそも平らではないので平らにプレスした時に自然にシワがよってこのようになります。素材にグラスレインというブランド名をつけることで視点を変えてフラットに素材として見てもらうことができると考えています。
エバンズ:名前をつけると愛着もわきますね。なぜグラスレインという名前になったのですか。
齊藤:グラスレインは、窓ガラスのグラスとそこに流れ落ちる雨の滴った様子のレインを組み合わせました。少しマイナスな気分になる雨の日でも、私が個人的に綺麗だなとポジティブに思えるシーンを切り取ったイメージです。
エバンズ:そのままビニール傘バッグという名前なのと、グラスレインという素材のバッグですというのでは大きく印象も変わりますし、元々廃棄される予定だったいわばゴミに名がつくことで新たな価値が生まれる気がしますね。
齊藤:ありがとうございます。こちらの画像は都内の縫製工場の様子です。こちらの工場でバッグとして完成します。
エバンズ:先ほどの川崎さんのお話とのコントラストがありますね。こちらは手作り、手作業でアナログな作業が多いように感じます。話を戻しますが、このパターン、形にされた理由は何かありますか。
齊藤:素材を集めると大抵、大型傘と小型傘に分けられるのでプロダクトも2つのサイズがあるのですが、なるべくそれぞれ平均的に無駄がなく取れるパターンでバッグのデザインを考えています。
エバンズ:そうですよね。ゴミになってしまっていたものを素材として使う中で、またゴミをたくさん出してしまっては矛盾を感じてしまいますし、デザイン自体もできるだけシンプルで無駄のないような作りにされたということですね。
齊藤:特にこのバッグは、一番初めにローンチしたプロダクトなのでメッセージとともに販売をスタートしています。
エバンズ:それが今、明希さんの目の前にある大と小のバッグなのですが、こういった問題、傘の廃棄の現状を知らない方にこのバッグを通じてその問題や課題に意識を持ってもらうことのきっかけとなるようにデザインも使いやすいものにしたり、試行錯誤されたりしたのですよね。
齊藤:お写真出ますか。
エバンズ:サビが残っているのもまた味があっていいですね。
齊藤:透明傘の中でも元々どれだけ使用されていたのかによって、生地の風合いが変化します。クリアであればあるだけ新品同様で廃棄された傘ということでもあります。製品を比較しても分かる通り、同じモデルでもまた表情が変わってくるので、そういった部分も好みはあると思いますが、アップサイクルならではの偶発的にできるデザインの楽しみの1つだと思うのでなるべく取り入れています。
エバンズ:これまでの大量生産大量消費のファッションのシステムであると全く同じものをどれだけ効率よく作るかが検討されていたと思うのですが、これからのスローファッションのように良いものを作っていく上では、こういったものの魅力を感じてもらえたりだとか、そこに良さを見出してくれる人が増えることもいいことですね。
齊藤:実際にお客様の中で最初に商品を受け取った際に、トートバックをにサビがあったことにショックを受けたことで、新しいものを買うときに新品で綺麗なものをどれだけ期待し、求めているかということに気付かされ、サビに対して愛着が湧いたとSNSに投稿してくださった方がいて、私はそれを見て感動しました。そういう風に捉えてくださって新しい気づきにつながってもらえると本当に嬉しいと思います。
エバンズ:なぜPLASTICITYという名前にしたのですか。
齊藤:PLASTICITYは一見、プラスチックとシティを組み合わせただけの単語に見えますが、plasticityという英単語が存在しています。柔軟性というプラスチックの素材の特徴的な意味合いの変形、適応がこのブランドにとって大切で、ぴったりな言葉だと思いました。もちろん傘からバッグへの変化を意味することもできるし、この言葉しかないなと思い、命名しました。
エバンズ:最初にコンセプトの方が浮かんだとお聞きしました。
齊藤:10年後に無くなるべきブランドというコンセプトを掲げています。ビニール傘を使用することになってからはコンセプトにフォーカスしていました。10年後無くなるべきブランドというのもその時に考えたものです。
エバンズ:私はいつも明希さんからメンタリティの部分も勉強させていただいているのですが、何かブランドを立ち上げる際に、目標を達成しようという思いがあると一歩目を踏み出せない方が結構多いと思います。そんな時に明希さんの話を聞くと、柔軟性が大切だという言葉が出ていて、非常に心強いと思いました。解決策は一つではないので、それぞれのジャンルでそれぞれができることを始めることが重要ですよね。そんな明希さんが、最初の一歩を踏み出す時の心構えをお聞かせください。
齊藤:とにかくトライアンドエラーです。想像して計画するだけでは、うまくいかないことは多いです。まず踏み出してみるということは大事にしている部分です。実際にこのブランドも何度も試作、実験した上でたどり着いているので、失敗もすごく多いし、目標を柔軟に変えていくことや、リセットすることも大切だと思います。
エバンズ:プラスチックという素材も元々は単に便利なものとして捉えられていましたが、普及した今となって環境問題につながっていると気付いたときにそのまま同じことを続けるのではなく柔軟に変化に対応していくというのがすごく大事ですね。
齊藤:レジ袋も何度も繰り返して使えるので最初はすごくいいものとして見られていたのに時代が変わり、社会が変わって、今の使い方では問題だというのがわかったので、情報がアップデートされていったときに、私たちは今どのようにアプローチすべきか考えることが大事なのかと思っています。10年後にどのような問題があるかわからないが、今私たちはバッグを作り続けます。雨の日に傘を忘れたからといってく必要があるのかと考え、消費の仕方を変えることや、リサイクルが難しい現状があるのでそのあたりでリサイクルのシステムなのか、製品自体をリサイクルしやすいものに変化させるのかを多方面から協力しあってアプローチする必要があると思います。その結果、私たちは今のように素材が手に入りやすい状況が変わっていてほしいと願っています。
エバンズ:このまま同じように買っては捨ててを繰り返していたらこの問題は解決しないですからね。ブランドとしては材料が手に入るので続けていくことができるけれども、それだとミッションをクリアすることができないので、おそらくこのブランドのミッションをクリアするときにはこのブランドは無くなるというのが面白い点ですね。
齊藤:作り続けたい反面、作り続けられる状況を考えると無くなるべきだというモヤモヤを表現しています。
エバンズ:すごくパワフルなキャッチコピーだと思います。ブランドを始める人の多くは100年続くブランドを作ろうとしますよね。この先、ビニール傘の大量消費がなくなった際に、明希さんはその時どのようなことをしたいなどあったりするのですか?
齊藤:ビジョンは正直ないです。本当にこの先どうなるかわからないですが、その時の社会にも課題はあると思うので、私がオファーできることをやっていきたいと思います。その形はデザインでも、バッグの縫製でも、全く違う何かでもいいと思っています。
エバンズ:この2年でいろいろなライフスタイルに変化のあった方も多くいたと思いますし、こうじゃなければならないと硬く考える方も多いのですが、日々の選択の中で心がけていることはありますか。
齊藤:普段心がけていることは、フレキシブルでなるべくいることです。何か目標に執着せずに動こうとしています。職業に関して、良くも悪くもこだわりがないです。
エバンズ:私自身も、何年か前に環境問題について知った時に、お肉はもう食べられないだとか、絶対にプラスチックは使いたくないだとか、極端にライフシフトをした時期がありました。今は明希さん言うようにフレキシブルで自分の中で自分を見つけるようになったというのが、大きな目標、一人では解決できないことに思えるのですが、それを自分のできる範囲で周りと役割分担してつながっていくことで大きな目標も達成できると感じました。
齊藤:お肉や魚を食べないこともそうですが、自分のサステナビリティがまず何よりも大切で、自分が持続できなければ意味がないので、なるべくやり過ぎないというのは大切かと思います。楽しみながらもできることはあるのでそれを探していくことが一番の理想だと思います。
エバンズ:好きとかけ合わせるというのが理想ですね。持続できるということが自分にとっても社会にとってもサステナブルだと思います。
齊藤:回収した傘の1〜2割はカラーが混ざっています。それもPLASTICITYでは一つの楽しみになっています。中には私自身もすごく好きなものがあるのですが、お客様が購入すると二度と同じものが手に入らないというモヤモヤや悲しさも大切だと感じます。
エバンズ:これまでの当たり前が変わってきているように感じますね。便利な世の中で、そういったことも必要なのですが、そんなにも急がなくてもいいものや生き方はたくさん存在すると思いますね。
齊藤:バランスが大切ですね。日本にいる多くの人がファッションを楽しむことができるのでラグジュアリーや娯楽として楽しむものなら急がなくていいものですよね。
エバンズ:近年、受注生産のブランドも増えています。事前に受注することで待つ過程も楽しみになります。待つことでそれが本当に欲しいものなのか考えるきっかけにもなりますね。
齊藤:少し考える時間があると、本当に必要なものなのか考えるきっかけにもなるし、半年待ってでもほしい洋服なのかなと考えることがひとつ当たり前になっていくといいのかもしれません。
エバンズ:お時間この辺りで終了ですが、質問が一件来ています。コメントも来ております。「コンセプトを含め、本当に素敵なブランドですね。」というお言葉をいただきました。今後ブランドとして現在の素材として使われているビニール傘が無駄にされないような取り組みもされたりするのでしょうか。
齊藤:発信し続けるというのはやり続けるべき活動です。バッグに限らず、10年後なくなるようにするには、どういうアプローチがあるのかなというのは考えています。他のアパレルなのか、インテリアなのか、違った分野でいろいろな人たちと協力し、新しい素材として、色々な場で利用されると嬉しいなと思っています。
エバンズ:傘のシェアリングサービスを利用してみようと思うきっかけになるものがこのブランドかと思います。新たに作るものを直接減らすのではなく、すでに作られたものをデザイン性のあるものに作り変え、寿命を延ばすことと同時に、こういった課題があることを世の中に伝えていくということがその取り組みの大きな意義になると思います。
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